鵜匠と鵜の絆

鵜匠の格式

 ぎふ長良川鵜飼では、現在6名の鵜匠が活躍しています。彼らは、宮内庁の儀式・交際・雅楽に関する職務を行う「式部職」のうち、「鵜匠に任命する」という辞令を受けています。「宮内庁式部職鵜匠」に任命されているのは、全国でぎふ長良川鵜飼の6名と小瀬(おぜ)鵜飼の3名の合計9名のみです。
6件の鵜匠家には、それぞれ屋号があり、鵜匠同士互いを屋号で呼び合うことが多くあります。鵜匠は、誰もが就ける職業ではありません。鵜匠家に生まれた男性しか就けない「世襲」であり、1家に1人です。病気や死亡などの理由で、先代の父が引退すると、息子がその跡を継ぎます。

ぎふ長良川鵜飼 鵜匠家の屋号

鵜の特性

鵜(シントリ)

 鵜は、カツオドリ目ウ科の水鳥の総称です。ぎふ長良川鵜飼では、カワウよりも体が大きくて丈夫なウミウを使います。現在、茨城県日立市十王町の伊師浜(いしはま)海岸で野生のウミウが捕獲され、各鵜匠家に届けられています。届けられたばかりの鵜を「シントリ」と呼びます。
鵜は、人に懐き、人が扱いやすい鳥です。また、視力が優れています。さらに、逃げる時、喉にためた魚を吐き出して飛び去ります。こうした特徴や習性が、鵜を使うヒントになったという説があります。鵜が視界に入る魚を可能な限り捕える鵜飼は、他の漁法に比べて魚の捕り逃しが少なく、効率的と言えます。また、鵜がくわえると魚が一瞬で死ぬので、脂が逃げず鮮度がいいと言われています。

鳥屋(とや)で餌をもらう鵜

鵜飼の一日

 朝、鵜匠は鳥屋に行き、鳥屋籠から鵜を1羽ずつ取り出し、喉や腹に触れて、体調を把握します。鵜が快適に過ごせるよう、鳥屋の掃除も定期的に行います。
夕方、鵜匠は再び鳥屋に行き、その日の漁に連れて行く鵜を選ぶと、鵜籠に入れます。そして、鵜舟に乗り込み、「まわし場」という鵜飼が始まるまでの待機場所に向かいます。出漁間際に、6艘の鵜舟が出発する順番をくじで決め、鵜飼漁が始まります。
鵜飼漁では、まず鵜舟と鵜飼観覧船が並走して、川を下りながら漁をする「狩り下り」を行います。狩り下りを終えると、鵜舟は再び川を上り、6艘が川幅いっぱいに斜めに広がり、同方向へゆっくり下りながら漁をする「総がらみ」を行います。
鵜飼漁を終えると、鵜を鵜籠に戻します。鵜の腹をさすって食べ方の足りない鵜に餌を与えることもあります。これを「あがり」と呼びます。あがりを終えると、篝火を川に落とし、家に帰ります。鵜を鳥屋籠に戻して休ませ、鵜飼の一日が終わります。

まわし場で待機

鵜を鳥屋籠に戻す

鵜飼の一年

鮎供養

鵜の検診

 鵜飼シーズンが始まる前と終わった後には、鵜の検診が行われます。獣医師が鵜匠家をまわり、全ての鵜の体重測定と血液検査、予防接種を行います。
5月11日、鵜飼シーズンが開幕します。鵜飼開きに捕れた初鮎は、皇室に献上したり、明治神宮や橿原神宮、岐阜市内の神社などに奉納したりします。
鵜飼シーズン中、予定された休日は、中秋の名月の一日のみ。悪天候の場合を除き毎日繰り返し鵜飼が行われます。その間、鮎供養や長良川祭り、八幡祭りなど、様々な行事が行われます。
10月15日、鵜飼シーズンが閉幕します。シーズンオフには翌年に備えて、松割木や腰蓑などの道具を準備します。また、年末年始の贈答用に鮎鮨を作ります。

御料鵜飼・皇室の鵜飼御視察

 「御料鵜飼」とは、宮内庁式部職鵜匠としての職務で、禁漁区である「御料場」で、皇室に納める鮎を捕る鵜飼のことです。鵜飼シーズン中に8回行われます。漁のみで観覧客のいない「平御料」と、宮内庁が駐日外国大使・公使夫妻などを招待して鵜飼を見せる「本御料(外交団接待鵜飼)」の2種類があります。外交団接待鵜飼では、鵜飼観覧船の両側に鵜舟がついて狩り下ることもあるほか、御料場の下流で総がらみが行われたりするなど、通常の鵜飼とは一味違います。
御料場では、皇族方による鵜飼御視察もあります。近年では、1997(平成9)年に天皇皇后両陛下が、2005(平成17)年に秋篠宮(あきしののみや)同妃両殿下が、2012(平成24)年に皇太子殿下が鵜飼をご視察されました。

駐日外国大使・公使夫妻などをお出迎え

皇太子殿下に鵜飼をご説明

鵜とともに生きる

 鵜匠は常に、鵜のことを大切に思って行動します。「鵜匠にとって鵜の存在とは何か」と聞くと、鵜匠たちは「家族」「兄弟」「子ども」「孫」「相棒」などと答えます。共に生活し、一生懸命漁をする毎日を積み重ねていく中で、鵜匠と鵜との間には絆が生まれます。
年老いて漁ができなくなり、鵜飼を引退した鵜も、引き続き鵜匠の家で暮らします。毎年、鵜飼シーズンが終わると、鵜に感謝と弔いの気持ちを示して、亡くなった鵜の供養が行われています。鵜匠の鵜に対する愛情。きっとそれが鵜に伝わるからこそ、鵜は毎日頑張って魚を捕ってくれるのでしょう。絆で結ばれている鵜匠と鵜が織り成す鵜飼は、見る人々の心を魅了してやみません。

鵜供養

鵜匠と鵜は「家族」です